名古屋地方裁判所 昭和62年(ワ)1550号 判決
(抄録)
「一 本件商法の違法性について
前記当事者間に争いがない事実及び<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができ、乙号各証中右認定に反する部分は右証拠に対比して採用できず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
1 本件商法の仕組み
被告ベルギーダイヤの商法の仕組みは前記事実欄第三の一の1、2記載のとおりであり、これを要約すれば、被告ベルギーダイヤは、ダイヤモンド等の宝石類を販売し、購入者を会員として組織し、更にその会員を商品の販売媒介者として組織の拡大を図るというものであるが、その組織は別表一記載のとおり四ランクに分けられ、下位のランクの者は上位のランクの者に属し、BDMを頂点としてピラミッド型の階層をなし、会員は別表二記載のとおり販売媒介手数料、指導育成料、オーバーライドの収入を得るよう定められていること、そのため自己の配下とされる者の多い程、上位の者は直接に販売媒介することなく収入を得る機会と方途が多くなるように仕組まれていること、そして被告ベルギーダイヤは、こうした営業を実施するため、定型的、組織的な勧誘組織を作って(以下「本件組織」という)、本件商法を遂行してきたことが認められる。
2 本件組織の基本原理
(一) ところで、本件のようなピラミッド型組織の基本的組織原理は、何らかの出捐をして当該組織の会員となった者が、次に第三者を同組織に勧誘、補充(リクルート)する対価として経済的利益を受ける権利を取得し、さらに勧誘、補充された会員も出捐をして同様の権利を得ることにより連鎖化することである。その結果、新たに組織に加入した者が、自己の出捐以上の経済的利益を得るためには、このような勧誘、補充が無限に持続、拡大されなければならず、これが組織存立の必要条件をなすものである。しかして、こうした組織は、抽象的には拡大を図れば図る程人口の飽和点に急速に達するという自己の内に破綻の必然性を内在させているのみならず、現実的にも組織の拡大とともに勧誘、補充がより一層困難となり、結局破綻に至る可能性が極めて高く、そうした場合、先に加入した者だけが巨額の利益を得て、末端の圧倒的多数の者は自己の出捐を回収することができないことになる。また、何時破綻するかによって、自己の出捐を回収できる者とできない者とが運命的に分かれることになるため、このような組織への加入は射倖性、賭博性を帯びてくるのである。したがって、このような組織を現実の社会において開設、運営しようとすると、当該開設者あるいは運営者はこうした組織の本質ないし問題点を明らかにすることができないどころか、却ってこれを隠蔽しなければならないから、必然的に第三者に対し詐欺的、欺瞞的な勧誘、補充を勧めることになるものである。
(二) 被告らは、ピラミッド型組織が抽象的に破綻する必然性を内在させていることをもって本件組織が必然的に破綻することに結び付けることは、抽象的可能性を直ちに現実的必然性に結び付けるという荒唐無稽かつ誤った考え方である旨主張するけれども、右認定のとおり、ピラミッド型組織の破綻の必然性は単に抽象的なそれに止まるものではなく、そのような危険性を内包しているが故にこれが現実化する可能性が極めて高いものであると認められるから、こうした考え方が直ちに荒唐無稽であるとか誤っている旨をいう被告らの主張はにわかに採用できない。
もっとも、本件組織がそのような危険性を有しているが故に、①不実誇大な宣伝による勧誘、②商品の品質、性能の無価値性、③契約内容の不確実性、④契約解除に対する制約等の問題点を惹起し、本件組織の反社会性を決するに当たってはこうした問題点をも検討したうえ総合的に判断されるべきことは被告らも指摘のとおりである。したがって、以下これらの点を踏まえて本件商法につき検討を加えることとする。
3 販売対象商品の無価値性
被告ベルギーダイヤが販売の対象とした宝石類は、これを購入して組織に加入した者が処分しようとしても引き取り手はいないし、あえて他に処分しようとすれば、その交換価格はいずれもせいぜい購入価格の一割程度に止まるものである。したがって、その資産価値は極めて低いのみならず、もともと購入者の殆どはこれを資産としてあるいは宝飾品として購入したものではなく、ただ、本件組織への加入条件を充たすために購入したにすぎないものである。事実、原告らにおいて現実に購入価格に相応しい宝飾品として身につけて楽しむなどしてこれを利用しているものも皆無である。
被告らは、本件で購入の対象とされたダイヤモンドが、正式な鑑定機関により最高の品質を有するダイヤモンド裸石である旨の鑑定を経たものであることなどを理由に購入価格に相応した価値を有するものである旨主張し、ダイヤモンド裸石そのものについて正式な鑑定機関により普通程度以上の品質を有するものである旨の鑑定がなされていることは原告らも特に争わないところである。しかしながら、本件で購入の対象とされたダイヤモンド等宝石類の価値が購入価格に相応しているか否かは、単に当該ダイヤモンドがダイヤモンド固有の品質を保有していることによって決せられるものではなく、販売(購入)価格と客観的交換価値の対比を基本にして、宝飾品として利用するために購入したものか、投機目的で購入したものか等の購入者の主観的側面からの価値要素なども加味して決せられるべきものであることはいうまでもないところ、前掲証拠によれば、被告ベルギーダイヤによって販売されたダイヤモンド等宝石類の客観的交換価値と販売価格との間には、いずれの宝石類についても現時点では前記のような大きな格差があり、これを当該宝石類を購入した時点で評価しても一般小売店価格より二ないし三倍程度(ファッションリングの場合は概ね格差が大きい。)は高額であって、本件宝石類の客観的交換価値はかなり低いものであったこと、これを購入者の主観的側面から見ても、宝飾品として実際に使用するために購入した者はごく少数であり、まして将来の値上がり等を期待するなどの投機目的で購入した者は皆無に等しく、被告ベルギーダイヤの販売した宝石類の主観的価値は極めて低いものであったことが認められ、こうした事実に照らすと、単に被告ベルギーダイヤの販売したダイヤモンドが正式の鑑定機関による鑑定を経た高品質のダイヤモンドであるという理由から、これら宝石類が販売価格に相応した価値を有していたと認めることはできず、他に被告らの主張を認めるに足りる証拠はない。
4 本件商法の仕組みの違法性
(一) 本件商法はマルチまがい商法である
(1) なるほど本件商法は、物品の再販売をするものではないから、当時施行されていた訪問販売法(昭和六三年法律第四三号による改正前のもの)により規制されていた連鎖販売取引(マルチ商法)に直接該当するものではないけれども、右法律が連鎖販売取引の要件として再販売を規定した理由は、右立法当時蔓延していたマルチ商法が、たまたま物品の再販売の方式を取っていたことから、これを規制しようとしたためにすぎず、再販売の要件は、その後昭和六三年法律第四三号により改正された訪問販売法によれば、連鎖販売取引の規制の対象として物品の販売のほかに「販売のあっせん」が加えられたことからも知られるように、こういった類の商法が違法性を有するか否かの判断に当たって本質的部分を構成するものでなくなったことから明らかである。むしろ、前認定の事実によれば、本件商法は、実質的には当時の訪問販売法が規制の対象として禁遏しようとしたマルチ商法と何ら異ならない取引形態、方式を有するマルチまがい商法であって、マルチ商法と同様の消極的評価を免れないものである。
(2) 被告らは、過去のマルチ商法の失敗の轍を踏まないようにするため、いたずらに射倖心を煽ったり、誇大な宣伝をしないように努め、商品の品質の向上と会員、組織のレベルアップのためのビジネス教室の開催、組織参加意思の再確認、MCC講習、BDAトレーニングの実施、会員指導のためのトレーナーの育成に力を注ぐ一方、会員に対してはノルマを課すことをしない、自由に会社の施設を利用したり会社主催のパーティーやイベントに参加できるなどのメリットを享受できるようにするなどして右問題点を克服するため、十分な措置を講じてきた旨主張し、被告藤原、被告平井の供述はこれに沿うけれども、被告らがこうした十分な措置を実際に講じてきたとは到底認め難く、採用できない。かえって、前掲証拠によれば、被告藤原、被告平井らの主観的意図にかかわらず、被告らが右問題点克服のために講じた措置と主張するところのものは、いずれも過去にマルチ商法に携わったことのある右被告らが、法の直接的規制を回避する意図のもとに、本件商法に携わる者に対し、遵守すべきものとして課した形式的要件にすぎず、本件商法を実行する過程において厳格に実践することを求められていた実質的要件ではなかったこと、そして実際に会員の獲得、リクルートを実行した会員、その指導に当たったトレーナー等も、こうした要件を右被告ら主張の趣旨に従って厳格に実践しようとする意識もないまま、会員の獲得と本件組織の拡大による自己の利益の確保のために奔走していたことが認められる。
(二) 本件組織を開設し運営することは無限連鎖法に違反する疑い
(1) 確かに無限連鎖法二条によれば、無限連鎖講(いわゆるネズミ講)というためには組織への加入者が「金品の出捐」をすることが要件とされているところ、本件組織への加入者は前記のとおり宝石類の販売代金の支払いという方式によりなされているため、法文上本件組織をもって無限連鎖講に該当すると解することはできないけれども、前記認定の事実及び証拠によれば右宝石類の販売代金は本件組織加入のための単なる手段であって、販売代金というのは名目にすぎず、その実質は組織への加入者が支払う金品の出捐にほかならないと評価できるものである。のみならず本件組織の実体は、同法一条が無限連鎖講を禁止する目的として規定しているところから明らかなとおり、「終局において破たんすべき性質のものであるのにもかかわらずいたずらに射倖心をあおり、加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至るもの」であると認めることができる。このことは、被告ベルギーダイヤは昭和六〇年七月ころに倒産状態に陥り、そのころダイヤモンド等を購入して本件組織の会員となった多数の者は、新たな会員の勧誘やリクルートができないことはもとより、購入した宝石類を処分して購入代金を回収することもできず、また被告らに右宝石類の買い戻しを要求しても、被告らは到底その要求に応ずることはできない状態にあることが認められることからも、十分これを裏づけることができるものである。したがって、本件組織は無限連鎖講と同視することができ、これを開設、運営することはやはり社会的に違法との非難を免れないものである。
(2) 被告らは、本件商法を商品の購入と購入者がビジネス会員となって本件組織に加入することに切り離し、本件組織をこうした新たな会員を勧誘・リクルートすることにより、自己が出捐した金銭を上回る利益を得るための金銭配当組織であると評価するのは誤っている旨主張するけれども、本件商法を無限連鎖法二条において規制されている無限連鎖講に類すると認定した所以は、本件組織を被告ベルギーダイヤによる商品の販売行為と切り離して評価した結果ではなく、むしろこれを一体としてみた場合にもそのような組織と評価され得るものであることにあったことは右認定事実から明らかであるから採用しない。
(3) もっとも、被告らは、本件商法が破綻したのは破綻すべき必然性によったものではなく、被告ベルギーダイヤの親会社である豊田商事及び銀河計画等豊田商事グループの会長であった永野一男らの指示により、一度に多額の運営資金を銀河計画に返済したため営業資金に窮したこと、豊田商事グループの商法が社会的に問題とされ、同社が倒産に追い込まれた煽りによるものである旨主張し、被告藤原及び被告小城らの供述中にはこれに沿う部分が存するけれども、前掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば、そもそも被告ベルギーダイヤは、金地金取引に藉口した純金ファミリー契約なる詐欺的商法で急成長した豊田商事の永野会長が豊田商事グループによる商法に陰りが見え始めたなかで、その打開を図るため展開した商法の一環としてなされたものであり、もともと豊田商事の詐欺的商法の系譜を引き継いだ脆弱な基盤の上に立った会社であること、被告らの殆どが豊田商事等から被告ベルギーダイヤへ役員などとして派遣され、後記のとおり被告ベルギーダイヤの重要な地位に就き、これらの被告によって被告ベルギーダイヤの営業は維持発展させられてきたものであること、しかもその具体的営業方法は、マルチ商法に深く関与した経験のある被告藤原、被告平井らが案出した方法によって推進されてきたものであること、かような経緯で成立した本件商法にはもともと多くの問題点が存していたところ、このような種々の問題点が昭和六〇年七月豊田商事の倒産に絡んで一気に出現したため、被告ベルギーダイヤも倒産に追い込まれるに至ったにすぎないものであることが認められるのであって、以上のような事実に照らすと、被告藤原らの本件商法の破綻に対する見方は、本件組織の問題点に目を塞ぎ責任を他に転嫁しようとするものというほかなく採用できない。
5 勧誘方法の不当性
(一)(1) 本件組織を開設運営する者が、本件組織を維持拡大するために詐欺的、欺瞞的勧誘方法を取ることになることは前叙のとおりであるが、被告ベルギーダイヤが行った勧誘方法は前記事実欄第三の二2(一)に記載のとおりである。これを要約すれば、被告ベルギーダイヤの行っていた勧誘方法は、被勧誘者に勧誘の目的等を告げずにビューティフルサークル会場に連れてきて、その場で三〇万円以上の高額なダイヤモンド等宝石類を購入させる一方、本件組織は破綻の必然性を内包しており、会員の勧誘に努力すればするほど破綻に近づくものであること、破綻すると少数の利益を得る者と多数の犠牲者が出ることになるが、これが運命的に分かれる極めて射倖性の高いものであること、新規加入者の勧誘が現実にもかなり困難であることなどの問題点を秘して、本件組織に加入することにより右代金額程度の収入はすぐにも回収でき、少し努力すれば高額の収入も容易に得られるかのように誤信させるような不当なものであったことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。
(2) この点に関して、被告ベルギーダイヤ及びその他の被告らは、勧誘方法に行き過ぎがないようにするため、社員教育、会員教育をして本件組織のレベルの向上を図るなどして、勧誘方法等が違法とならないよう配慮する措置を講じてきた旨主張するけれども、そうした配慮が現実に実行され実効を上げていたことが認められないこと前記認定のとおりであり、他に被告らの右主張を認めるに足りる証拠はない。
(二) しかして、こうした勧誘方法は独禁法二条九項による昭和五七年六月一八日公正取引委員会告示一五号所定の「不公正な取引方法」八項の「欺瞞的顧客誘引」、九項「不当な利益による顧客誘引」にも当たると解することができるものである。
6 本件商法の違法性
以上認定の事実に弁論の全趣旨を総合すれば、本件商法は前叙のとおりその仕組みと方法自体に多くの問題点を抱えているうえ、こういった商法を営んだ者に対し罰則をもってのぞんでいる訪問販売法、無限連鎖法、独禁法の各法条にも抵触する恐れの極めて高いものであることが認められ、これを全体的に評価すれば、本件商法自体が公序良俗に反する違法なものと評価することができるものである。したがって、これを実行することはもとより、これに加担したり幇助することもいずれも民法七〇九条の不法行為を構成するというべきである。
7 これに対して被告らは、本件商法に違法性のない所以を前記主張に加えて種々の観点から主張するけれども、いずれも本件商法の一端を部分的に取り上げてこれが前記法条等に該当しない根拠とするものであって、本件商法が全体として違法であることの右認定判断を動かすには足りないものであるから採用できない。
二 被告らの責任
<省略>
三 損害
前掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば、被告らの不法行為により、原告らはそれぞれ次のとおり損害を被ったことが認められる。
1 宝石購入代金(一部は内金)、受講料、印紙代
原告らは、別紙損害一覧表の購入年月日欄記載の日時に、同購入物欄記載の宝石類を購入し、同既払額欄記載の金額を支払い、さらに本件組織に加入するに当たりMCC受講料欄記載の受講料を支払い、さらに会員となるに際し販売媒介委託契約書を作成して同印紙代欄記載の印紙代をそれぞれ支払ったこと、そしてこれら金員の出費と被告らの不法行為との間に相当因果関係のあることが認められる。
但し、別紙原告目録(一)記載の番号7の原告の既払い金額は一一万円、同(四)記載の原告の既払い金額は三四万三一〇〇円の各限度で、同(一)記載の番号18の原告及び(二)記載の番号25の原告の受講料はいずれも一万円の限度で認められ、これを超える支払いを認めるに足りる証拠はない。
2 損益相殺
原告らが購入した宝石類は価値が低く、これを現金化することも容易でないことは確かであるが、いわゆる原野商法により取得した原野のように使用したり現金化することが事実上不可能といった類の物品ではなく、なお相当の使用価値、交換価値を有するものであることは前記認定のところから明らかである。そしてその価値は、少なく見積もっても、購入価格の一〇分の一程度の価値(一〇〇円未満切り捨て)を有するものと認められるから、別紙認容額一覧表の残存価格記載の限度で原告らの損害からそれぞれ控除する。
但し、購入宝石類を返還したことが認められる同目録(一)記載の番号1の原告についてはもとより控除しない。
3 慰藉料
原告らは、それぞれ本件商法に巻き込まれ、これが破綻するに至ったことによって対人関係等において種々の精神的苦痛を被ったことは認められるけれども、前記財産的損害が補填された場合にもなお回復し難い程の精神的損害を被ったことまではこれを認めることができないから、原告らの慰藉料請求は認められない。
4 弁護士費用
本件訴訟の内容、審理の経過、認容額等を考慮すると、各原告らに対し、一律五万円の限度で前記被告らによる不法行為と相当因果関係のある損害と認める。
四 結論
<省略>」